2023/12/07 16:20
CenMOZOが立ち上げに至るまでを綴ったCenMOZOストーリー、尾崎視点の後編になります
精油づくり奮闘記
さて、様々な植物等から精油という天然香料が採れることを知った私は、まずその抽出に圧搾法、水蒸気蒸留法、アブソリュートなど方法があることを調べ、その中でも水蒸気蒸留法に着目しました。
水蒸気蒸留法とは、原料を蒸留釜に入れて加熱すると芳香成分を含んだ蒸気となるため、それを冷却管を通して液体に戻して採集、最後にその上澄みを掬って綺麗にすることで精油を得るという方法のことです。
また、精油を掬った後に残る水は芳香蒸留水(フローラルウォーター)という呼称で知られています。
水蒸気蒸留法が、他の抽出法と比べて特に優れていると感じた点は
①高温での蒸気処理によって、微生物や細菌が殺菌され、高い品質の香料が採れる
②化学的な溶媒や添加物を使用しないため、純粋で自然な香料になる
という2点です。
その他にも水蒸気蒸留の優れている点としては、植物の花や葉、根など様々な部位を利用できることや、柑橘系に限っていえばフロクマリン類と呼ばれる、紫外線と反応して皮ふに損傷を与える「光毒性」を持った成分を取り除いて抽出することができる点などがあります。
一方でこの製法は非常に奥が深く、原料の状態や性質によって得られる精油の量や香りもことなりますし、加える原料の量、水の量、煮沸する温度や長さなど様々な条件に留意する必要がある、難しい手法でもあります。
こうして水蒸気蒸留法に着目した私は、日本国内で実際に水蒸気蒸留法を用いて精油の抽出を行っている場所に見学に行くことにしました。
まずお邪魔したのは愛知県今治市です。
瀬戸内で収穫できる柑橘類を実際に蒸留する体験を行い、アランビックという銅製の蒸留器を使用して精油の抽出を行ってみました。
次にお伺いしたのは、宮崎県日南市です。
恥ずかしながらペーパードライバーのため車の運転がとても不慣れな私なのですが、宮崎市から日南市までの道中は勇気を振り絞って車を走らせて訪問しました(笑)
そちらでは大きな蒸留窯を使って蒸留を行っている様子を視察しながら、蒸留に関する様々なお話をお伺いしました。
どちらの訪問先の方々も、私の素人同然の質問に対してもご丁寧に答えてくださり、短い間の訪問でしたがたくさんのことを学ぶことができました!

これらの施設を訪問させていただいて蒸留のイロハについて勉強させていただいた私は次に、情報収集とネットワーキングを目的として、幕張メッセで開催された「農業Week」という大規模な展示会に参加しました。
そこでは、農業や農産物の加工等を行う様々な企業が出展されていたのですが、色々とお話を聞いて回っている中で偶然、フィリピンを含む東南アジアと結びつきを強く持っている企業の方と知り合うことができました。
そして、その方からフィリピンで農業に関する学会が開かれることを伺った私は、すぐさま登壇者として参加登録を行い、学会に飛び入りで出席することになりました。
その学会は、マニラの貿易センターで開催された「Hyper Interdisciplinary Conference」という異分野領域とのコラボレーションを通じてフィリピンの農業をより発展させることを目標としており、その中で私は、フィリピンの新鮮な作物を香りとして日本に届けたいという思いと私たちのプランについて発表しました。
発表後には個別の質疑応答の時間が1時間程度設けられたのですが、たくさんの人が私たちの発表に興味を持ってくださり、新しいアイディアや具体的なアドバイスを下さったりなど、好意的に受け止めてもらえたのがとても嬉しかったです。
ただ、海外の学会で英語で発表と個別の質疑応答を行うというのは、私にとっては全く未体験の挑戦でしたので、本当に緊張したことを今でも鮮明に記憶しています(笑)
また、参加が決まったのが本当に直前だったため、すべての準備を急ピッチで行う必要があり、渡航前はとても慌ただしく過ごしたことも印象に残っています。

そのような経験を経て、
「フィリピン現地で精油を抽出する準備がようやく整った」
という確信を得た私たちは、2022年の12月には小さいサイズの蒸留器を購入し、日本での試験蒸留を行った後、それをMOZO農園まで届けに行きました。
日本でのテストの際にはレモンとオレンジなどの柑橘類の蒸留を実際に行い、少量ですが精油がしっかり採れたことを確認していたので、意気揚々とフィリピンへ渡航し蒸留を始めたのですが、ここで思わぬ事態に直面します。
蒸留しても蒸留しても精油が出てこないのです...
基本的なやり方は確かに間違えていないはずなのに、肝心の精油がほぼ全く採れませんでした。
果実の状態や産地など様々な条件によって蒸留の結果も変わってくるという事実を身をもって体感した瞬間でした。
幸いなことにその訪問の際にはフィリピンに一ヶ月弱滞在するスケジュールでしたので、焦らずに日々条件を変えながら挑戦を続けることにしました。
そして蒸留窯に加える水の量、原料の量、果皮の細かさ、冷却水の温度や循環のさせ方など蒸留の結果に影響しそうな要素を少しずつ変えていくと、段々と精油が採れるようになっていき、最終的には一定量の精油を無事日本に持ち帰ってくることができました。
無事に精油を持ち帰ることができた私は、安堵に胸を撫で下ろすと同時に、精油を抽出することの難しさを改めて噛み締めながら家路に着きました。
そして帰国後は、より効率的な蒸留を目指して更に知識を深めるべく、山形県に訪問し、そちらで水蒸気蒸留を専門的に行っていらっしゃる先生の下へ訪問し情報交換を行ったりなど、これまで以上に蒸留の世界に魅入られていくようになったのでした。
精油づくりのその一歩先の香りづくり(調香)へ
私はこのあたりから、段々と「香りそのもの」に対する興味を強く持つようになりました。
香りとは、実に不思議なものです。
良い絵画や音楽が多くの人々の心の奥底に強く訴えかけるように、香りもまた人の心身に大きく作用するものの一つです。
人間の五感の中でも嗅覚だけは、その他の感覚と脳内での伝達のされ方が異なり、刺激を受容した時に、その情報が本能的な行動や直感、情動を司る大脳辺縁系に直接届くとされています。
それゆえに香りは、人の感情に作用する力が大きいのだそうです。
そんな香りの性質を少しずつ知っていくうちに、私も自身の記憶の中で、香りが無意識下で自分の心身に影響を与えていたことを思い出しました。
例えば、ひどく気分が落ち込んだ時、以前の私は何も考えずに秩父の山へ出かけることがしばしばありました。
山に行くと言ってもちゃんと登山をするわけではなく、ただフラッと山道を歩いて気分を切り替えたいといった程度のものです。
山へ向かっている時には気持ちが塞ぎこんでしまっているため、あまり周囲の香りなどは頭に入ってきません。
ですが、一歩山道へ踏み込んでいくと木々や土、川、野花といった東京にはないたくさんの香りが自分を包んでくれて、身を委ねているうちに、うじうじと悩んでいたことなどどうでもよくなってしまう、そんな経験を何度かしてきました。
そんな力を持った香りという存在は、情熱を注いで探求していくにあまりある魅力的なものだと確信しています。
これまで、私は仕事の中で美術や音楽、スポーツといった、国境を超える力を持ったものに間接的に関わってきました。
そのいずれも言語を介さずとも理解することができ、また人間の感情を揺さぶるパワーを持ったものです。
ですが、私には残念ながら絵を描いたり演奏をしたり、あるいは身体を自在に扱ったりといった分野での才覚には乏しく、自らが主体となって何かを発信するという立場になることはありませんでした。
しかしながら、心のどこかでは自分自身の力で何かを生み出してみたい、表現してみたいという気持ちは燻っていました。
そんな中で、香りづくりに携わり始めた私は、先ほども述べた香りの持つ魅力、そしてそれをアレンジして世に発信していく「調香」という作業、それを行っていくことでこんな私でも、国の垣根を超えて人の心に訴えかけるようなものが作れるのではないか、と考え始めました。
そこで、精油の抽出が少しずつ軌道に乗ってきた段階で、次に私は様々な香料を組み合わせて新しい香りを生み出す「調香」の勉強を始めました。
愛知県名古屋市でショップを経営されている調香師の方のもとへ訪問し、以降、様々な香料を購入し、それぞれの香りを記憶するトレーニングや、実際に混ぜ合わせてみて香りの変化を調べるといった作業を日々行うようになりました。
私たちの作る精油の香りをよりよく表現するために、多様な香料の持つ性質を正しく理解することは、長い時間を要するものですが、同時にとても興味深く面白いものです。
現在でも毎週調香の時間を取り、その様子をInstagramで発信するなどして、常に感覚をアップデートするように務めています。
今後やりたいこと
これまでの活動を通して、今後見据えていきたい目標も自分の中でいくつか見つけることができたので、そちらについてお話していきたいと思います。
①蒸留できる原料の幅を広げる
現在はMOZO家で栽培しているレモンなどの柑橘類を蒸留しておりますが、フィリピンにはまだまだ魅力的な香りの原料がたくさんあります。
代表的なものでいうとイランイランです。
イランイランノキというフィリピン国内で広く自生している樹木に成る花は、濃厚で甘い香りを持っており現地の人々にもとても愛されています。
イランイランの花から高質な精油が抽出できるのですが、今私たちが保有している蒸留器では抽出することが非常に難しいため、更に高性能な蒸留器が必要になりますし、高い技術も求められます。
また、イランイランの他にもレモングラスやプルメリア、シトロネラなど精油の原料となる植物はフィリピンに数多く存在しています。
現状、MOZO農場ではそのような作物は栽培していないため、それらの原料を入手するためには、フィリピン国内の別の農場とも提携のネットワークを広げていく必要があります。
このように、原料の幅を広げると一口に言っても、そこに至るには様々な準備が求められるのですが、「フィリピンの魅力的な香り」をしっかりと引き出していくために、今後は水蒸気蒸留に対する知識を一層深め、適切な設備を用意し、多様な香りをお届けできる体制を構築していきたいと思います。
②現地での生産拠点を拡大する
私たちの活動の根幹にあるものは「自分たちの経験を活かして世界の諸問題の解決に貢献したい」という想いです。
MOZO家のあるザンバレス州も日本とは異なる様々な問題を抱えています。はじめは、私たちが実現可能なスケールでMOZO家のためにできることを探し、農園の整備と精油の加工というアイデアに辿り着きました。そして私たちはその事業によってもっと多くの人たちに寄り添っていきたいと思います。
そこで、フィリピン農村部における精油づくりをより拡大していくことで、農業が新たな付加価値を生む構造を作ると同時に、抽出の行程に携わる方々を広く募り働き方の新しい可能性を提供するなどし、このような問題の解決に寄与していきたいと、そう願っています。
結びに
ここまでお読みくださりありがとうございます。今日に至るまでの私の取組みと思いについて拙筆ながらここまで綴りましたが、本当に大切なのは「これから何を成していくか」に尽きると思います。「社会課題の解決に寄与する」という根底にある思いをいつでも胸に刻みながら、香りづくりを通して実現して参ります。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。